グリーンランドの氷はどれくらい変わった? 数字を比べる前に見る3つの条件
グリーンランドの氷を示す5.4mと17.3mmは、同じ種類の数字ではありません。公式研究の観測範囲を分けて読むと、何が分かり、何は言えないのかが見えてきます。
グリーンランドの氷をめぐる数字は、単位だけを見ると比べられそうです。しかし、確認できる公式研究を並べると、先に見るべきなのは数字の大小ではなく、どこで、何を、いつ測ったかでした。
「5.4m減った」は、どこの何の数字か
国立極地研究所の2026年9月1日公表の研究成果は、グリーンランド北西部のカナック氷帽を対象に、2012年から2025年まで13年間の観測を扱っています。氷帽上の6地点で雪と氷の増減、つまり表面質量収支を測った結果、氷帽全体の平均では、氷の厚さに換算して約5.4m分が失われました。
ただし、これはグリーンランド全体の平均値ではありません。カナック氷帽という特定地域で、一定期間に観測された値です。年ごとの損失量も約0.23~1.02mと幅があり、同じ場所でも毎年同じ変化になるわけではありません。さらに、この観測では降雪量より気温の影響が約5倍大きいとされています。
この数字から読み取れるのは、北西部の観測地点で氷の収支が大きく変動し、その変動に気温が強く関係していたことです。「グリーンランドの氷が一律に5.4m減った」という意味に広げると、観測範囲を超えてしまいます。
「17.3mm」は別の場所・別の指標
別の時間軸を示すのが、国立極地研究所の南東ドームに関する研究です。2021年に掘削した約250mのアイスコアから、グリーンランド南東部高地について、1799年から2020年までの夏季の積雪融解量を復元しました。
その研究では、夏季の積雪融解量は1960年代が平均1.8mm、1940~1950年代が3.6mmだったのに対し、2000年以降は17.3mmでした。ここで測っているのは氷帽全体の厚さではなく、南東ドームのアイスコアから復元した夏季の積雪融解量です。北西部カナック氷帽の5.4mとは、場所も対象も単位の意味も異なります。
同じ研究ページでは、1799年から2020年までの年降水量に有意な増減傾向は確認されなかったと説明されています。そのため、融解量の増加は、降水量の変化よりも夏季気温の上昇と関係すると解釈されています。ここでも、観測された指標をそのままにしておくことが、結論を広げすぎないために重要です。
二つの研究を合わせると、何が分かるのか
北西部の研究は、2012~2025年の現地観測によって、雪と氷の収支がどのように変動したかを示します。南東部の研究は、氷の中に残った記録から、過去から近年までの夏季融解量の変化をたどります。
つまり、前者は比較的新しい現地観測、後者は長い期間の復元です。両方を合わせると、グリーンランドの氷の変化を一つの数字で表すのではなく、短期の観測と長期の記録を重ねて理解する必要があると分かります。一方の数字だけから、島全体の融解速度や将来の変化を断定することはできません。
グリーンランドの氷の数字を読む3つの条件
- 場所:北西部のカナック氷帽か、南東部の南東ドームか。
- 指標:氷の厚さに換算した収支か、夏季の積雪融解量か。
- 期間:2012~2025年の現地観測か、1799~2020年の氷床コアによる復元か。
この3点を確認すると、「5.4m」と「17.3mm」のような数字を、単純な大小比較で誤って並べずに済みます。グリーンランドについて今言えるのは、異なる地域と方法の研究が、それぞれの範囲で氷の変化を捉えているということです。数字を大きく見せるより、数字がどの条件で得られたものかを残して読むほうが、実態に近い理解になります。