「絶対に行ってはいけない」商店街はなぜ怖いのか――ホラーゲーム『奥ヶ淵商店街』
『奥ヶ淵商店街』の怖さは、幽霊だけにあるのではありません。行くべきでない場所へ仕事として入る、という設定が商店街の過去と結びつきます。
『奥ヶ淵商店街』の「絶対に行ってはいけない」は、現実の商店街への注意ではありません。ゲームの中で、行くべきではない場所へ、行かなければならない状況を示す言葉として読むと、この作品の輪郭が見えてきます。
舞台は1980年代の日本の廃商店街です。Steam公式ストアでは、一人称視点の探索ホラーとして紹介されており、主人公は不動産会社に勤める気弱な会社員。再開発のため、廃商店街である儀式を行うよう命じられます。Steam公式ストア
何をしに商店街へ入るのか
このゲームの目的は、単に廃墟を歩き回ることではありません。表向きには、再開発に必要な儀式を進めること。ところが商店街には、何かを求めてさまよう女の幽霊がいます。残された資料や手記を調べながら、土地の伝承と隠された過去にも近づいていく構成です。
ここで、主人公の立場が怖さを強めます。好奇心で怪異を見に行く人物ではなく、仕事として現地に入る人物だからです。つまり本作の緊張感は、「入ってはいけない場所に入る」ことと、「命じられた仕事を終えなければならない」ことの衝突から生まれます。
儀式と過去の調査は別々の要素ではありません。儀式を進めるほど、なぜこの商店街でそれを行うのかという疑問が大きくなる。プレイヤーは出口だけでなく、場所そのものの理由を読み解くことになります。
なぜ商店街が恐怖の舞台になるのか
商店街は、本来なら人の往来や買い物のための身近な空間です。そこを「廃商店街」として提示することで、身近さと不在が同時に置かれます。しかも舞台は1980年代。現在の場所とは異なる時間の層が、資料や手記を通して残されています。
DorsalFin Studioの公式サイトは、実地取材や心霊座談会で得た知見を制作に反映した作品として本作を紹介しています。DorsalFin Studio公式サイト
もちろん、この説明から実在の怪異があるとは言えません。重要なのは、商店街を単なる背景ではなく、調べる対象として扱っている点です。幽霊が現れるから怖いのではなく、目の前の場所に、儀式・再開発・伝承・過去の出来事が重なっている。その関係を知るほど、主人公の仕事が単純な作業ではなくなっていきます。
ホラーが苦手でも廃商店街を見られるのか
Steam公式ページには、ホラー要素なしで廃商店街を探索できる「廃墟探索モード」も案内されています。このモードでは時間帯を変更でき、ゲーム内カメラで廃墟を撮影できます。
これは、本編の恐怖を弱める設定というより、同じ作品の舞台を別の見方で捉えるための選択肢です。怪異や儀式を追う遊び方だけでなく、商店街の空間そのものを観察する遊び方も用意されている。公式情報からは、本作が「驚かされるホラー」だけでなく、「廃墟を読み取る探索」としても設計されていることが分かります。
物語の謎や幽霊との関わりを知りたいなら本編の設定が中心になり、恐怖演出を避けて舞台を見たいなら廃墟探索モードが入口になります。どちらを選ぶかで、同じ商店街が「進まなければならない場所」にも「観察する場所」にも変わるわけです。
「絶対に行ってはいけない」の答え
『奥ヶ淵商店街』で本当に怖いのは、商店街という名前の場所に幽霊がいることだけではありません。再開発という現代的な目的のために、過去の伝承が残る廃墟へ入り、そこで儀式を進めなければならないことです。
だから「行ってはいけない」は、場所への単純な警告ではなく、プレイヤーを物語の矛盾へ引き込む言葉になります。避けたい場所なのに、仕事のために入る。調べるほど過去が見えてくるのに、目的は儀式の完了。『奥ヶ淵商店街』は、その逃げにくさを商店街という身近な舞台に重ねたホラーゲームです。
なお、DorsalFin Studio公式サイトでは、Steam版の発売日を2026年8月7日と案内しています。